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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(行ツ)19号 判決 1978年6月27日

広島県呉市西愛宕町一三番二号

上告人

山下真揮人

右訴訟代理人弁護士

元村和安

広島県呉市西中央二丁目一番二一号

被上告人

呉税務署長 竹下律男

右指定代理人

滝沢三郎

右当事者間の広島高等裁判所昭和五〇年(行コ)第五号更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和五一年一一月八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。

よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人元村和安の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正巳 裁判官 服部高顯 裁判官 環昌一)

(昭和五二年(行ツ)第一九号 上告人 山下真揮人)

上告代理人元村和安の上告理由

第一点 原判決には判決に理由を付せず又は理由に齟齬があつて、民事訴訟法第三九五条第一項第六号に該当する。すなわち、

一、原判決は「控訴人(上告人、以上同じ。)は、かねてからパチンコ店を経営してきたものであるが、その営業規模・環境の変化がなかつたから、本件係争年度の収入は、前後の年度の収入と特に異なるわけがない。控訴人の昭和三四、同三五年度の総所得額はそれぞれ六、三八四、三〇四円、六、六三五、五〇〇円であつて、被控訴人(被上告人、以下同じ。)もこれを認めてこれに基いて徴税している。被控訴人の主張する本件係争各年度の総所得額は、右金額と格段の差があり(昭和三六年度は一七、四三四、一〇二円、昭和三七年は二二、二〇六、四二七円、昭和四八年は一七、六一六、〇九四円)、首肯し得る事情が存しない。」との上告人の主張に対し、「控訴人はかねてからパチンコ店を経営し昭和三四年頃以降においてその営業規模・環境に顕著な変化がみられなかつたこと」、「被控訴人は、控訴人の所得につき調査の上、昭和三四年、三五年の総所得金額をそれぞれ控訴人主張のとおりに認定し、これに基いて算定された所得税の納付を受けていること」、「控訴人は、昭和三九年六月自己を代表者とする株式会社ローズを設立し、同会社が控訴人のパチンコ店営業を引継いだところ、同会社の昭和四一年三月未までの各事業年度の法人税について被控訴人がなした更正処分において認定された事業所得金額が本件裁決における本件係争年度の事業所得金額をかなり下回つていること」の三点を認定しながら、しかもなお、「たとえ、」控訴人あるいは右会社の右各年度の総所得あるいは事業所得金額が右認定のとおりで「あつたとしても、本件各係争年度の収支につき……被控訴人主張の事業所得金額」(右係争前後の年度の二ないし三倍にあたる)「が過大でないとの判断を不当とすることはできない。」としている。

二、しかしながら、パチンコ店の経営による所得は、その営業規模、環境に左右されることが最も大きいものであるから、各年度間において、この点について、「顕著な変化がみられない」旨の認定がなされるならば、特段の事情がないかぎり、所得額についても、各年度間において、顕著な相違がみられない旨の認定がなされるべきである。そうすれば、本件各係争年度の上告人の所得は、原判決認定の前後の非係争年度の二ないし三倍という著しく高額になるのではなく、上告人主張額に近いものと認定さるべきである。

三、してみれば、「本件係争年度を含む各年度におけるパチンコ店の営業規模・環境に顕著な変化がみられなかつた。」旨の判断は、特段の事情についての認定がない以上「本件係争年度の各年度におけるパチンコ店経営による所得に顕著な差がみられるような認定(二倍から三倍に及ぶ所得があつたという認定)も不当でない。」旨の判断と矛盾するものであり、この点において、原判決の理由には齟齬があるといわなければならない。

四、更に、原審が、右のように認定するとすれば、パチンコ店の経営規模・環境に顕著な変化がみられないにもかかわらず、所得額には、二、または三倍という顕著な差異が生ずるに至つた特段の事情について、審理を尽し、判断をなすべきであつたことは理の当然である。しかるに、原審は、右特段の事情についての審理をしないまま右のように認定したものである(右特段の事情の審理がなければ立証責任の原則に従つて、被上告人に不利に、すなわち、原判決とは逆の認定をなすべきであつた。)し、従つて、右特段の事情についての判断を示さなかつたものである。この点において、原判決には、判決に理由を付しなかつた違法があるというべきである。

第二点 原判決は所得税法第一五六条の解釈、適用を誤り、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明白である。すなわち、

一、原判決の認容する被上告人の所得認定の方法は、いわゆる架空等預金の源泉が、「本件各係争年度の」、「上告人の」所得であるとの前提に立つものであり、所得税法第一五六条の方法、いわゆる「推計課税」の一方法である資産負債増減法の手法をとり入れたものである。而して、推計課税においては、一般に推計方法の合理性が問題とされており、当該推計方法が合理的であるか否かは、推計課税の適法性の判断についての最大の争点の一つとなつているものである。(拙稿「税法学研究」、昭和47年法律文化社発行234頁以下ならびに同所に引用の裁判例325頁以下御参照)。

二、本件は、被上告人の主張する預金の源泉が「本件係争年度における」「上告人の」収入のみによるものか、それとも右預金の中には、それ以外の収入によるものが混入しているのではないかが問題となる場合であり、かかる場合には、資産負債増減法の採用は、他の推計方法に比して、特に慎重に、消極的になさるべきであるとされているのである。

三、上告人に本件係争年度以前にも相当額の収入があつた事実は、前記第一点において述べた如く、上告人が、相当額の所得税を納付し続けていた事実からみても明らかである。してみれば、本件預金の源泉には、「本件係争年度以前の」上告人の収入(営業収入、パチンコ店売却代金)が混入している蓋然性が極めて高いと考えるのは理の当然である。

四、しかるに、原審においては、右混入の事実を否定するに足りる特段の事情については、何らの判示もなされないまま右預金はすべて、「上告人の」、「本件係争各年度における」所得をその源泉としている旨認定されている。

五、右事実と第一点において述べた本件係争各年度とその前後の各年度の二ないし三倍にも及ぶ著しい不均衡とをあわせ考えれば、被上告人が本件で採用した所得認定の方法が合理性を欠くものであることは明らかであり、これを適法とした原判決は所得税法第一五六条の解釈、適用を誤つたものである。

而して、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明白である。

よつて、原判決は破棄さるべきものである。

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